大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第三小法廷 昭和26年(あ)5027号 判決 1957年12月10日

主文

原判決を破棄する。

被告人を免訴する。

理由

弁護人徳田禎重の上告趣意は末尾添附のとおりである。

職権により調査すると、本件公訴事実は、

被告人は鹿児島市塩屋町一三番地村尾一彦所有の機帆船和栄丸の乗組員であるが同船船長山野良志、船員緒方弘と共謀の上昭和二六年二月二〇日頃鹿児島県熊毛郡屋久島一湊港において森山某が北緯三〇度以南の南西諸島より税関の免許を受けないで輸入した、銅屑、真鍮屑等一九九八瓩の運搬方の依頼を受けるや密輸入貨物であるとの情を知りながらこれを右和栄丸に積み込み、同月二一日同港を出港して同月二二日肝属郡佐多町馬込間泊港に到着し以て同船で右密輸入貨物を不法に運搬したというのである。

そして記録によると右公訴事実の南西諸島というのは、或は大島方面といい或いは大島沖縄方面という証拠があるだけで、その所在はいずれであるか判然としないが、訴訟条件の存否が疑わしい場合もまた被告人の利益に従うべきであるから、これを奄美大島群島方面と解すると、右奄美大島群島は右犯行当時以降昭和二八年一二月二四日までは旧関税法(昭和二四年五月一四日法律六五号により改正された明治三二年法律六一号)一〇四条、昭和二四年五月二六日大蔵省令三六号により、続いて昭和二六年一一月二九日法律二七一号により改正された旧関税法一〇四条、昭和二七年四月七日政令九九号により、右関税法の適用については、外国とみなされていたのであるが、昭和二八年一二月二四日政令四〇七号「奄美群島の復帰に伴う国税関係法令の適用の暫定措置に関する政令」附則八項により、右政令九九号は改正され、同月二五日以降は、税関の免許を受けないで貨物を奄美大島群島方面から輸入することは、右政令九九号改正の結果として何ら犯罪を構成しないものとなったのであり、従って本件公訴事実のような輸入に係る右貨物を運搬することもまた可罰性を失ったものというべきである。されば本件は、刑訴三三七条二号にいう刑の廃止に該当することになる。(昭和二五年(あ)二七七八号同三二年一〇月九日大法廷判決、昭和二七年(あ)二四五六号同三二年一〇月九日大法廷判決参照)従って、弁護人の論旨に対しては判断を与えるまでもなく刑訴四一一条五号により原判決を破棄し、同四一三条、四一四条、四〇四条、三三七条二号により、被告人に免訴の云渡をなすべきものである。

この判決は、裁判官島保を除くその余の裁判官一致の意見によるものである。

裁判官島保の少数意見は、昭和二五年(あ)二七七八号同三二年一〇月九日云渡大法廷判決に示されたとおりであり、裁判官小林俊三の補足意見は、昭和二七年(あ)四三四号同三〇年二月二三日大法廷判決に示されたとおりであるからここに援用する。

(裁判長裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 小林俊三 裁判官 垂水克己)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例